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BONESの屋台ボネ 『鋼の錬金術師』水島精二監督インタビュー 後編 back
第6回目の「ボンズの屋台ボネ」は、 『鋼の錬金術師』の水島精二監督のインタビュー(後編)です。
---- 『鋼の錬金術師』の制作段階でのエピソードみたいなものはありますか?

水島精二監督(以下水島) 一話冒頭の母親の錬成シーンは、制作側としても放送許可が下りないものを作りたく無いんで、最初は少し抑えた表現で進めていたんです。そうしたら竹田プロデューサーの方から「監督があれで良いっていうなら良いけど、もうちょっとやってもいいんちゃう?」っていう電話が掛かってきて。それを言われるとこっちとしてもむかつくんですよね(笑)。「何だと!」って思うんですよ。だからやるところまでやって、「これどうだ!」って出したら「ええんちゃう」って(笑)。そこで、この人は覚悟を決めているんだと。フィルムを見ながら、自分たちがどこまで真摯に取り組むのかっていうところをはかられていたと思うんですよ。結果、1話の段階であそこまでまで表現出来たことが7話にも繋がって来て。7話もタッカーの業や、ニーナの扱い等をちゃんと描けました。竹田さんが、そういう作品のテーマに触れる部分は暈さずにきちっとやろうっていってくれる局プロだったっていうのは、この作品にとって大きな幸運でしたね。

---- 勧善懲悪ではなくて、人間が住む世界の中には悪もあるし、善もあるし、その中間もある。そういうものが作品の中に出ていると思います。

水島 人間が持っている曖昧な部分とか、善悪の判断であるとか、倫理観であるとか、そういうものって人によって線引きの仕方が変わってくるし、ましてやタッカーみたいなヤツにですら、大人だと共感できちゃう部分ってあるんですよね。子供からすると「何で?」という疑問の方が強いと思うので、年齢層によって捉え方が変わってきますけど。でも現実には猟奇殺人があったりとか、現在の世界を作っている病魔だと騒がれるものがあったりしますよね。どんどんテクノロジーが進化して多岐化しているけれども、根本にあるものっていうのは人の心だから、人の心の闇みたいなものをどれだけ描けるかという部分は気を付けてます。ただ、あの時にタッカーがなぜあんなことをやったのかっていう部分はちゃんとわかるようにしてあげないといけないから、タッカーの長セリフで余計に心情が浮き彫りになる構造にしてフォローしています。あの回は脚本が良かったので、これをどう映像化したらみんなに届くかというところはすごい苦心して作りましたね。作品を見ていろいろ親子で話をしてもらったりしたのは、あの頃の話数は特に強かったみたいですね。

---- たしかに見る人の年代や経験で、作品の見え方も全然違ってくるのでしょうね。

水島 原作の『鋼』自体がそういうものなので、そこは変に固めないようにして多種多様な取り方をされることは当たり前だと思ってます。主人公の行動ロジックみたいなものはきちっと作ろうと思ってやっていますけどね。

---- 『鋼の錬金術師』のアニメは全51話とけっこう長丁場ですよね。前回監督をされた『シャーマンキング』も同じ原作モノで、しかも全64話という長期の作品でした。『シャーマンキング』で長い作品は既に経験済みのようですが、そういう意味では一年という長いスパンでやる作品に不安要素みたいなものは無かったんですかね。

水島 いや、でも僕がボンズでやるのも初めてですし、ボンズという制作会社としても一年ものの作品は初めてなので、それはもうこの作品が動き始めた頃に制作デスクにはかなり言ってましたね。「一年をナメてたら偉いことになるよ! 絶対半年で崩れるよ!」って。

---- いままでハーフマラソンしか経験してなかった人たちが、いきなりフルマラソンに挑戦するようなものですもんね。ペースが掴めないというか。

水島 そうですね。自分は経験をしているんである程度読める部分はありますし、自分がペースを作っていかないといけないので、なるべく自分の作業は後ろに回さないで、前に前へ進めるようにコントロールしていますけどね。脚本は後半になればお話をまとめないといけないですから、絶対に遅れが出てくるんですよ。その分巻いていかないといけないので、早め早めにやらないと。あとは、現場に入ってみるとコンテを何週間前に出せばフィルムがどこで間に合うかというところも含めて、デスクと細かく相談しながらやるようにして、すべて情報はお互い持っているようにする。そうすればリスクは減るかな。制作には、割と協力的な監督だと思いますよ(笑)。

---- 原作の『鋼』よりもこちらのアニメの方がストーリーが先に進んでしまっているというところでの難しさみたいなモノはありますか?

水島 アニメをスタートするときに、結末までの大まかなプランニングというのは原作者の荒川先生の方には提示しています。荒川先生の方がアニメに関しては原作漫画とは別モノで良いと思っていてくれたみたいで、そういう部分では非常に楽でしたね。荒川先生にも楽しんでもらえているみたいなので、良かったです。脚本に関しては、『鋼』のストーリーエディターには會川昇という男が立っていまして、彼は僕にとって『鋼』を引き受けるにあたって絶対に必要な人材だったんですよ。『鋼』の話をもらって二巻を読んだときに、こういうヘビーな話をやるんだったら會川氏しかいないなと。會川氏とはもともと呑み仲間で、機会があったら一緒にやりましょうと話をしていたんです。なので、南さんから「シリーズ構成はどうする?」って言われる前からこっそり會川氏に連絡をしていて、頼んでいたぐらいでした。全51話のストーリーライン、原作を解体してどう再構成するかというところはほとんど會川氏が担ってくれている感じです。僕も最初はアイデア出しを付き合おうと思っていたんですが、ストーリーに関しては彼の方が一枚も二枚も上手なんで、こちらは彼が出してくるシナリオのおもしろさや構成のおもしろさを、どういう風にフィルムすれば良いのかというところを頑張ろうと。ただ、ストーリーを進める上でのキャラクターの決着の付け方とか、監督が決めないといけないところはきっちりこっちに振ってくるし、迷ったときにはこっちの意見も聞きますから、そういう意味では非常に良い関係だと思います。ある種お客さんと同じで、どんな脚本が上がってくるのかなっていう風に待っている部分もありますね。

---- ファンの反響というのはいかがでしょうか。この『鋼の錬金術師』という作品は、もともとの原作のファンがいらっしゃって、さらにアニメで初めて知ったファンの方がいると思うんですが。

水島 非常に賛否両論な感じです。視聴環境が非常に良いということもあって、作品としてはすごく見ていただけてるなと思います。今まで自分が関わったどの作品よりも反響は大きいですね。原作ファンの反響で言えば、「原作をうまくアレンジしている」と言って頂いているという方もいらっしゃいますけど、「原作を変えすぎだ」という声も多いです。お気に入りのシーンが再現していないとか、シチュエーションを変えているということに対して抵抗感があるようで、そういう意見もかなりありますよ。でも、そういった意見は原作ものだと当然出る部分だと思います。

----それまでに思い描いていた個人のイメージを崩さずに映像化するのは難しいですもんね。

水島 でも、逆にこれまでに原作を読んだことの無い方が、アニメを観てコミックを買ってくださっている方もいるみたいですので、そういう繋がりは非常に良いことだと思います。

---- アニメがヒットすることで、原作コミックに限らず、他メディア展開の可能性も増えますよね。

水島 いろんなメディアでファンの子たちが楽しめるものが増えるのは良いことだと思うんですよ。そういう意味でも作品の間口が広がってよかったんじゃないかなと思いますけどね。コレも『鋼』だよと言うことで、楽しんでもらえたらいいなあと。

---- プレイステーション2やゲームボーイアドバンスではゲームも発売されていますが、アニメ制作サイドとしてはどこまで関わっているのですか?

水島 PS2の『鋼の錬金術師 飛べない天使』に関してはアニメの本編を作る前にアニメパートを制作しました。南さんが「ゲームからやると現場も慣れて良いだろう。だからゲームからやるから」と。ゲームのアニメパートを作りながらアニメの準備をして、現場的にはそのままアニメ作品の方に移行しました。新作の『鋼の錬金術師2 赤きエリクシルの悪魔』に関しては、アニメの制作の方がクライマックスに差し掛かっている段階だったので、さすがに同時進行ではできず、ボンズきってのおもしろ監督、増井壮一さん(アニメでは22話、25話、30話の絵コンテを担当)に監督をお願いしています。僕が作っている『鋼』とはちょっと違うところもあるんですけど、これがまた増井ワールドで良いんです。自分と同じテイストだったら別の人がやる理由はないし、せっかく今回増井さんが監督として立ってくれているのだから、増井味でいいじゃんっていうことで、面白いものがいろいろ上がっていますね。僕じゃあ絶対こうやらないっていうのが出ているんで、とても良いなあと思います。

---- それでは、新作のゲームではまた新しい『鋼』が見れるという。

水島 ストーリーはテレビからの流れのではないし、ゲームはゲームでオリジナルの雰囲気を持っているんですよ。ゲームの制作を担当しているラクジンという会社のディレクターも自分なりの想いを持っているし、きちっと一つの作品としてまとめられる人たちです。今のところ僕がゲームのコンテを読んでいる限りでは、ああ、増井『鋼』だ、増井エドだ、増井アルだっていう感じ。テレビの中でキャラクターがころころ変わっちゃうのはあんまり良いコトじゃないと思うので、ちゃんと決めてきますけど、原作から生まれたゲームならではの世界観なので、求められるものとかも違うし逆にアニメのままだといけないんですよね。ゲームではくだらないギャグを書いてたりして、俺だったらこんなところにこんなくだらないギャグ入れられないよって思いながら(笑)、ニヤニヤしながらコンテを読んでます。


取材・文 浅山祐介
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