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2009.0702

【亡念のザムド】スタッフインタビュー06

ボンズ制作のカサオカです。
随分と間が開いてしまいましたが、亡念のザムド本編終了を期に、色彩設計の梅崎ひろこさんにインタビュー致しました。作品の色を決定する職分としての色彩設計と言うのがどのような役職なのか、少しでも感じ取っていただけたなら幸いです。

【亡念のザムド】スタッフインタビュー06
色彩設計:梅崎ひろこ

umezaki.jpg:イラスト 宮地昌幸

―― まずは、亡念のザムド全話ご作業終了お疲れ様でした。

梅崎 お疲れ様でした。

―― とは言うものの、終了してもう既に結構時間はたっている訳ですが(笑)

梅崎 思い出話みたいな感じですね(笑)

―― まずは、全体を大きく振り返って、亡念のザムドのご作業はいかがでしたか?

梅崎 そうですね、普通のテレビシリーズではやれないような事をたくさんやらせてもらったな、と思います。細部にわたって、1カット1カット、徹底的にこだわらせていただきました。パートカラー・・・・・・モノトーンに近い色彩で、どこか一部だけ原色に近い色を残す表現なんですけど、美術さんから、原色の背景とモノトーンになっている背景が重なったレイヤーになっている素材を頂いて、背景のどこの色を残すかなどを調整しながら、セル自体の色を調整しました。普通は、シーン毎にボードを作って、セルもそれに合わせてシーンで統一した色を使用するんですけど、パートカラーの場合はホント1カットごとに全て微調整をかけてます。自己満足かもですが・・・・・・。

―― こだわりと言えば、テシク(氏族)の色なんかも結構こだわってますよね。

梅崎 名前が無いテシクの一般の人たちはそれほどではないですけれど、老頭とか若頭とか偉い人たちは、ストライプの模様だったり作業している方は大変だったのではないでしょうか?

―― 序盤に出てくる尖端島のキャラクターやザンバニ号のキャラクターなど、個性的なキャラがたくさん出てきますが、国籍的な部分などで色を工夫された点ってありますか?

梅崎 ザンバニ号のメンバーに関しては、最初の打ち合わせをした時に「この人たちはこれこれこう言う人種の人たちで・・・」って言う具体的な説明があったので、それに基づいて色は決めましたね。髪の色とか、肌の色とか、目の色とか。尖端島の人たちは、日本っぽいと言うか、現実の世界の人たちっぽい雰囲気で考えました。後は、打ち合わせで皆さんのご意見をお伺いして、どういう性格ならどういう色が合うのか、と言うことを考えながら調整していきました。塗ってみてから、「これじゃちょっと地味だなー」とか思って修正していったりもしましたね。

―― 色を決める上で思い入れのあるキャラクターは居ますか?

梅崎 キャラも小物も一杯一杯塗ったからなー・・・・・・、どのキャラって言われると難しいですね。んー・・・・・・ザンバニ号で言うと、伊舟が一番印象深いですね。他のメンバーが大体決まっている中で、色が被らないようにしつつキャラクター性を出すので苦労しましたね。後のメンバーはすんなり決まった気がします。後は、ゼーゲンドォですね(笑)最初はもう少し落ち着いた感じだったんですけど、調整して行く内に監督とかからも「もうちょっとここ派手にしようよ」とかご意見を頂いて、派手目な紫を入れてみたり(笑)

―― 白エナメルの靴とか(笑)

梅崎 そうそう、あれは面白かったですね(笑)今テレビ放送されているのを自分で見てても、「ゼーゲンドォ派手だなー」と思います(笑)

―― カラフルさが逆に民族衣装っぽさを引き立ててた感じですね。

梅崎 そうですね、アジアっぽい民族衣装のテイストを入れたいと言うご要望はありましたので。そう言う感じになるように調整しました。

―― ちょっと話を変えまして。世の中には色んな色彩のアニメーションがありますよね。かなりモノトーン気味だったり、逆にカラフルだったり。そんな中で、梅崎さんご自身はどういう色彩のアニメーションがお好きなんですか?

梅崎 あんまりにも色が無い作品は寂しいので、色を見せるところは見せつつ、押さえる所は押さえる、メリハリのある作品、色が好きですね。自分がその作品に関わって作業する上だと、作品の内容やキャラクターのデザインによって、「この作品にはあまりきつい色は似合わないな」とか「柔らかい方が良いな」とか考えますね。完全にデザインや内容によって変わってくるので、作品に合わせてトーンも変えていく感じです。ザムドは線が柔らかくて、影付けも当初は少なめと聞いていましたので、それで色が無いとホントにペッタリしちゃうので、ある程度影が無くても見えるような色にしておかないといけないな、と思ってました。かといってキツい色を使うと線の柔らかい感じに合わないなと思って、メインキャラクターの色はその辺りを意識して作りました。

―― 梅崎さんの中で、色の幅としてどの辺りまでがアリなんですか?

梅崎 ん?例えば?

―― 例えば、現実に存在しないピンク色の髪の毛とか。

梅崎 あぁ、そう言うのは苦手といえば苦手ですね(笑)もちろん原作があればそれに従いますが、オリジナルで現実にありえない色彩を持ってくるのは、苦手です(笑)

―― 今回はクジレイカがピンク髪でしたけど、違和感無かったですよね。

梅崎 そうですね、あの子の場合は全然違和感無かったですね。

―― むしろエキセントリックさが良く出ていたと思うんですが。

梅崎 そんなにきついピンクでも無かったですからね。あれがショッキングピンクだと「無いなー」って言う感じでしたけど(笑)まぁ、リアリティも大事ですけど、キャラクター性も大事ですからね。最初アキユキ君を塗っている時、イメージボードが黒髪だったんで黒で塗ってたんですけど、ためしに茶色にしてみたらどうなるかなーと思ってやってみたんですよ。そしたら、なんか凄いプレイボーイ風になっちゃって(笑)アキユキ君のキャラクターとしてこれは無いな、と(笑)

―― ザムドの色についてなんですけど、各ザムドはそれぞれもとのキャラクターの色から発展させた感じで作られたんですか?

梅崎 それは意識してますね。「ここはこうした方がもっと良くなるかな」って言う部分は、こちらからパターンを提示しつつ皆さんのご意見を伺った感じですね。

―― 大体のザムドは元の色からの延長で分かるんですけど、雷魚のザムドは何故紫なんですか?

梅崎 あれは・・・・・・なんでだったかな。最初に橋本さん(ザムドデザイン)とどういうお話をしたのかはよく覚えてないんですけど、おそらく雷魚なので、水の青から、紫系にしようと言う事にになったのではなかったのかな、と思います。巨大ザムドなどは、APSスーツの訓練機が黄色いので、それと被らないように、と思って黄緑になったような気がします。うろ覚えですいません。先に決まっているものと被らないように、と言う逆算で決めたと思います。

―― そう言う意味では、シリーズものでは後になればなるほど使える色は少なくなっていくんじゃないですか?

梅崎 辛いです。あれも使ったし、これも使ったし・・・・・・で(笑)テシクの村の人々なんかは、後半に出てくる分特に苦労しましたね。ヤンゴちゃんも結構悩んだ覚えがあります。テシクっぽい雰囲気にしたいと言う話を聴いていたので、服装のデザインを見ながら、どうテシクっぽくしようか悩みました。あれ?ヤンゴちゃんは結構最初の頃に決めてたんでしたっけ?版権で(笑)

―― そうですね。ナキアミと二人で階段に座っている雑誌版権がありましたね(笑)

梅崎 テシクはゼーゲンドォとヤンゴ・ナキアミで大体の方向性を決めたのかな。・・・曖昧ですね、申し訳ありません。

―― 作品の色を決める上で、色彩設計としての意見ってどれぐらい反映されるものなんですか?

梅崎 監督によりますね。監督が「ある程度お任せするよ」って言う感じだったらかなりの割合が色彩設計さんの意見になると思うんですけど、細かく指示される方だと、監督の意見がかなり投影されていると思います。

―― 色のコントロールも監督に拠りけりなんですね。

梅崎 最終的に、自分としてあまりにも「これは無いなー」と言うのがあったら意見はしますけれども、そこでどれだけ調整が取れるかですね。

―― 色を決める上で、どんな設計にすれば仕上げさんの作業が軽減されるかなど、作業工程の効率を全体を考慮して決められるんですか?

梅崎 それはかなりありますね。色数ばっかり多くなっちゃっても大変だし、「ここを塗り分けにするとパカ(※)っちゃって大変だな」とか。常に意識はしてます。デザインによっては、それが分かっていても分けざるを得ない時もあるので、両方を考えつつ「塗り分けはするけれども、色は他の部分と兼用しよう」とか。後作業の効率を意識しながら調整はしてます。デザイナーさんや監督さんの意向もありますので、増やさざるを得ない状況もありますが、なるべく後作業の仕上げさんの事は考えて作業してます。

(※パカ(色パカ) = 一瞬だけ色が現れて消えるような「色がパカパカ切り替わって見える」状態の事。大体において、ミスに見えるのでリテイクの対象となる)

―― ザムドでお気に入りのエピソードなどあったりしますか?

梅崎 後半22話から26話までは見所ばかりでどの話数も好きです。24話のミドリちゃんの話や、23話の伊舟と雷魚、22話でのリュウゾウと垣巣の一騎打ちの話もよかったですね。

―― 尖端島の物語のクライマックスですからね。

梅崎 その前のリュウゾウとフサの○○シーンは見ていてかなり恥ずかしくなっちゃいましたが(笑)あんまり自分のやっている作品でああいうシーンが出ることは無いので(笑)後好きなエピソードは、そうですね・・・・・・アキユキとハルとフルイチの三人のエピソードだと1話と14話になっちゃいますね。切ないですが・・・・・・。アキユキとハルだけだと、19話の再会シーンですね。

―― 途中、アキユキが成長して衣装も変わるんですけど。

梅崎 王子ですね(笑)

―― そうそう(笑)その王子の色はどういう風に決められたんですか?

梅崎 最初設定を貰った瞬間に「あ、かっこいい!」ってトキメいちゃったんで、「これはやっぱり王子だよなー。王子といえば白だよなー」と思って(笑)

―― 色と言うのは目立ちすぎてもいけないので大変ですよね。

梅崎 そうですねー・・・・・・アニメにおいては、作画に合っていて、見ている最中に色を気にしない作品が一番です。それだけ世界観にマッチしていて自然だと言うことですから。

―― 初見でまず一番目に飛び込んでくる情報量っていうのは、色ですからね。

梅崎 ぱっと見た瞬間に「なんか違うなー」と思われたら怖いじゃないですか。メインスタッフチェックの時なども、初見の瞬間にパッと表情が明るくなると「あー、良かった」ってほっとしますね(笑)

―― 他に、色彩設計として大変な部分と言うと何がありますか?

梅崎 最初、企画書を拝見したり監督さんのお話お伺っていたりする時は凄くワクワクして楽しいんですけど、いざ実作業に入った時にその後希望に添えるのかどうか、作品を上手く表現できるのかと言うことを考え出すと、凄く大変な気分になります(笑)色で駄目にしたら最悪ですから。

―― 今後、梅崎さんがアニメのご作業をされていくうえでの意気込みなどがあれば。

梅崎 いただけるお仕事があればいくらでも頑張ります。持っている限りの100%は出しますが、未熟さは許してください(笑)もっと自分の出来る事、作れる色の幅を増やしたいので、自分にとってハードルの高い作品をやりたいですね。いつも代わり映えのしないことをやっていても成長が無いので、よりハードルの高い作品を超えていけば、経験値は上がり、成長できますから。そう言う意味で、ザムドと言う大きな壁を越えられたのは自分でもレベルアップできたのではないかと思いますので、また、機会があればハードルの高い作品に挑戦したいです。

―― カッコ良いです!・・・良い作品の影には良い色有り、と言うことで。

梅崎 そうなるように頑張ります!

2009/06/05 ボンズBスタジオ会議室にて